プロジェクト概要

位置天文観測とJASMINE(ジャスミン)

JASMINE(ジャスミン)とは、現在開発中の日本初の位置天文観測衛星です。 位置天文観測というのは、ふだんあまり聞き慣れない用語かと思いますが、この後に説明するように、星までの距離を三角測量の原理を使って測定する天文観測の方法です。 このような星の距離の三角測量を宇宙に打ち上げた望遠鏡を用いて正確に行う計画で、JAXA宇宙科学研究所の公募型小型3号機(打ち上げ目標2028年)に選定されました。 主鏡口径30cmの望遠鏡で、赤外線を用いて10万分の1秒角級の精度で星の位置測定をおこないます。 主にわれわれが住む天の川銀河の中心領域(バルジ)の星の距離を正確に測定することを目指しています。

星はどのように運動して見えるの?

星の並び(星座の形)は時代とともに変化します。これは、天の川銀河の中を個々の星が独自に運動しているからです。その運動は夜空を直線運動し、固有運動とよんでいます。一方、太陽の周りを地球が公転すると夜空に対して星は楕円運動します。この公転運動にともなう楕円運動と、星独自の固有運動が組み合わさって、らせん運動が観測されます。

5万年前のカシオペア座と現在のカシオペア座
らせん運動

星の距離はどうしてわかるの? - 星の三角測量 -

 地球が太陽の周りを公転する事で星は夜空に対して見える方向が変化します。図で示す部分の角度を年周視差といいます。この角度が大きいほど星までの距離は近く、小さいほど遠い事がわかります。

 このような星の位置天文観測の歴史は大変古く、紀元前約150年にまで遡ることができます。 現在でも2013年に欧州天文台 (ESA) が打ち上げた位置天文観測衛星「Gaia」(ガイア)が約10億個の星々の位置天文観測を続けています。 位置天文観測は最も古くて、そして現在も最新の最新の観測技術をで進歩しつづけている最新の天文観測なのです。

三角測量による距離の測定
位置天文学の歴史

JASMINEの観測精度と観測波長

JASMINEが測定できる角度の精度は10万分の1秒角級にもなります(1秒角=3600分の1度)。この10万分の1秒角とはどのくらいの角度でしょうか。これは、100km先の人の髪の毛1本の太さの10分の1を見込む角度です。

JASMINEの観測波長:JASMINEは、可視光線よりも長い波長であるHwバンドと呼ばれる帯域(1.1~1.7ミクロン)の赤外線を用いて観測します。 こうした長い波長を用いることにより、可視光では宇宙の塵やガスによる吸収のため観測が困難となる天の川銀河の中心領域の観測が可能となります。

JASMINEでわかること

 JAXA宇宙科学研究所の公募型小型計画宇宙科学ミッションでの実現を目指して開発中の位置天文観測衛星です。主鏡口径30cmの望遠鏡で、 可視光では見通すのが困難な天の川の中心領域を見通すことのできる赤外線を用いて最高ではおよそ10万分の1秒角の精度で星の位置測定をおこないます。 天の川銀河の中心領域(バルジ)のさらに中心部(中心核バルジ; 右図)の星の距離や運動を正確に測定し、 バルジや中心核バルジの構造の解明を行います。
 中心核バルジは外側のバルジと銀河系中心との物理的関係をつなぐ重要な領域で、 外側のバルジと異なる様相をしており、未解明の天体や天体現象の宝庫です。天の川銀河の中心核バルジを調べることでバルジ、 更にはその周りの棒状構造がいつどのように出来たのか、さらに天の川銀河の中心の存在する巨大ブラックホールがどのように形成されたのかに迫ります。
 また、中心核バルジに存在する星団や星の起源、あるいは隠された星団の解明、超高速度星の起源について調べることでバルジがどのように形成されてきたのかに迫ります。
 中心核バルジだけでなく、ブラックホールから成るX線連星や系外惑星、あるいは活動恒星など興味ある天体の観測も行います。

銀河中心考古学:5次元天文データによる天の川銀河と巨大ブラックホールの進化を結びつける天の川銀河の中心核の解明

天の川銀河のバルジの中心部の形成過程

中心核バルジがどのような構造を持ち、いつ形成されたのか、よくわかっていません。JASMINEはバルジの星や変光星(ミラ型変光星)の位置と運動の様子を詳細に調べることにより中心核バルジの構造(ディスク状あるいは棒状の構造が存在するのか)について調べます。
また変光星の周期と年齢の関係を用いることで、中心核バルジ内のディスクの構造がいつできたかを解き明かします。また、中心核バルジのディスクの形成時期と外側にある棒状構造の形成時期には関連があり、棒状構造がいつできたかの謎に迫ることができます。

中心部の構造と天の川銀河の中心へのガス流入

銀河系中心部へどのように分子ガスが流入するのか、それによってどの程度巨大ブラックホールの質量が増えることになっているのかは未だ明らかにされていません。バルジ中心部で回転する棒状構造の回転速度や方向など、構造の特徴を調べることで、ガスがどの程度中心部に流入するのかがわかります。そのことにより巨大ブラックホールの形成メカニズムに迫ります。

中心にある巨大ブラックホール

天の川銀河の中心には太陽質量の約400万倍という巨大ブラックホールがあることがわかっています。巨大ブラックホールがどうやってできたのかはまだ謎ですが、中心部の巨大ブラックホールの種となる複数個の巨大ブラックホールが周辺部から中心部に落ちて合体したとすると、その痕跡として、中心核バルジにある周りの星の運動分布に特徴的な影響を与えます。そこで、まわりの星の運動を調べることによって複数個の巨大ブラックホールが過去に落ち込んできた証拠が見つかるかもしれません。

天の川銀河中心領域(巨大ブラックホール)(想像図)

隠された星団の探査

中心核バルジにおける星団や星の起源を解明します。星団の位置と運動情報から星の年齢まで時間をさかのぼる事で、誕生した領域を探ります。時間がたって周りの星と区別がつかなくなってしまった星団(隠された星団)も星の位置と運動の情報を調べる(固有運動が同じものを探す)ことにより発見することができます。これにより中心核バルジ内の星団の起源や中心核バルジがどのように時間進化してきたか(星がある時期だけにできたのか長い時間をかけてできてきたのか)といった星の形成史の謎に迫ります。

超高速度星

通常の星よりも非常に速度の大きい星が存在します。そうした超高速度星の運動情報から過去にさかのぼる事で中心にある巨大ブラックホールの影響によって速度が加速されて飛んできたのかどうかを探ります。

重力レンズ効果

観測する星の前をブラックホールなどが通過する時に、星の見える方向が重力の影響でずれて見えます。巨大ブラックホールの形成のもととなる中間的な質量のブラックホールや太陽質量程度のブラックホールが存在するのか、またどの程度存在するのか探ります。更にはワームホールが存在するのかについても迫ります。

ハビタブル惑星探査:中心核バルジ方向以外の天体の観測

系外惑星

惑星を伴う恒星は惑星の重力の影響によって動きに乱れが生じます。その動きを捉えることで系外惑星の探査をおこないます。 JASMINEでは、軽くて赤い恒星 (褐色矮星) のまわりにある惑星を見つけられます。 さらにJASMINEでは、M型星とよばれる赤い恒星の明るさの微細な変動を観測することにより、恒星の周りの生命が居住できる環境にある地球型惑星を見つける(大発見)ことができるかもしれません。

系外惑星(想像図)

はくちょう座X-1

はくちょう座X-1はブラックホールと超巨星が連星をなしている天体と考えられています。 JASMINEでは、はくちょう座X-1をある期間集中的に調べます。 この天体の運動を詳細に調べ、超巨星の軌道を確定したり、星の表面現象や降着流、あるいはジェットの謎に迫ったりすることができます。

はくちょう座X-1(想像図)

活動恒星

黒点、白斑、フレア現象があらわれると観測される星の方向がわずかにずれます。そうしたずれを測定する事により、どのような黒点や白斑、フレアが発生しているのかを調べます。

活動恒星(想像図)

JASMINEのソフトウェア

準備中

JASMINEのハードウェア

打上げ

JAXA(宇宙航空研究開発機構)で開発されたイプシロンロケットへでの打ち上げを目指しています。

イプシロンロケットの打上げ

外観(2020年時点の仕様案)

衛星の全長(高さ)は3.7mで、重量はおよそ400kgです。衛星上部(ミッション部)に望遠鏡や検出器が搭載されます。衛星下部(バス部)のボックス(太陽電池パドルが両面からついている部分)には、衛星をコントロールするシステムが搭載されます。

望遠鏡(2020年時点の仕様案)

望遠鏡の主鏡は口径が30cmで、焦点距離は3.9mです。3枚の異なる曲率を持つ鏡を用いることによって、コンパクト、かつ0.6度×0.6度という広視野にわたり収差の小さいきれいな星像が得られる優れた光学系となっています。

検出器

可視光線よりも波長の長い赤外域で感度を持つHgCdTe 検出器を用います。およそ4cm 四方のサイズで4000×4000画素あります。
上記の米国製の検出器を搭載する案に加えて、地上用に開発され、天文観測に適した高性能な国産赤外線検出器を宇宙用化し、搭載する案も検討しています。

衛星の軌道、姿勢

衛星は、高度550km 以上で地球を約100分間で1周しますが、衛星の軌道面にあたる太陽からの光の角度が同じになる太陽同期軌道とよばれる軌道をとります。地球周回中50%は目的の対象を観測する姿勢をとり、残りの50%は検出器が動作する-100℃以下の温度を保つため、衛星の温度が上がりすぎないように太陽や地球の影響を受けにくい姿勢をとります。